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森の学校2022 「キノコの不思議な世界を知る」講座

 2023年1月21日(土)、森の学校「キノコの不思議な世界を知る」講座が秋田県森林学習交流館・プラザクリプトンを会場に開催された。参加者は51名。講師は、キノコの専門家・秋田きのこの会会長の菅原冬樹さん。森の恵み、健康に良い食材、毒キノコ、キノコ狩りをする際の注意点、新薬の開発、新たな利用、キノコの生き方、植物と菌根の進化、森の木々は互いに争っているではなく、菌根ネットワーク網でつながり会話・協力し合いながら共存・共生している話まで幅広く、90分では足りないくらい内容の濃い講座であった。
  • 主催/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • 協賛/(一社)秋田県森と水の協会
  • 協力/秋田県森の案内人協議会
  • 講師・・・秋田きのこの会会長の菅原冬樹さん 
  • マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』(スザンヌ・シマード)
     映画『アバター』に出てきた「魂の木」~木は互いにつながり合って会話している。カナダの森林生態学者・スザンヌ・シマードさんは、実験のために森に何百本もの木を植え、長い時間をかけて観察した結果、木と木が菌根菌のネットワークでつながりあい、互いを認識し、栄養を送り合っていることを科学的に証明した。その「森の科学者」の世界的ベストセラー「マザーツリー」が、2023年1月に発売された。 
  • 名前の付いていないないキノコの方が圧倒的に多い・・・日本にキノコは約1万種、うち名前が付いているのは3千種程度。世界には、名前の付いていないものも含めると6万種以上。形も色も様々。
  • 日本は森林大国で、樹種もキノコの種類も多い・・・ヨーロッパ全体で樹木は1,000~1,200種に対して、狭い日本でも1,200種もある。それだけ木の種類が多いということは、木と関係が深いキノコも多いということ。 
  • キノコの一生・・・キノコから胞子が飛んで、倒木や落ち葉などの上に落ち、発芽して、胞子から菌糸が伸び、菌糸体となる。菌糸体の一部で菌糸が密に集合して、キノコの元になるつぼみが形成され、これが発達してキノコとなる。キノコは、子孫を残すために胞子を飛ばすというサイクルを繰り返す。 
  • 栽培が難しいキノコ・・・チョレイマイタケ、アミタケ、サクラシメジ
  • チョレイマイタケ・・・このキノコは表面が黒い菌核(上右写真)を作り、この菌核は形がイノシシの糞に似ていることからチョレイ(猪苓)と呼ばれている。この菌核は古くから解熱、利尿薬などの漢方薬として利用されている。これがサワモダシと共生している。サワモダシは簡単に栽培できるが、樹木の病害菌だから、これを増やしてしまうと、ドングリのなるナラなどの木を枯らしてしまう。これをナラタケ病という。だから外ではなかなか栽培できない。
  • アミタケは松の根と共生サクラシメジは広葉樹と共生しているから栽培が難しい。
  • 秋田で栽培されているヒラタケ、ナメコ、エリンギ、マイタケ、ブナシメジなどは、共生ではなく、木を分解して出てくるキノコだから栽培できる。
  • キノコを最も食べる都市は?・・・生シイタケと他のキノコも含めて、秋田市が日本一という結果には驚いた。 
  • キノコの生き方
    1. 分解者・・・落ち葉や枝の分解、材の分解、腐植層の分解
    2. 寄生者・・・昆虫への寄生(冬虫夏草)、キノコへの寄生
    3. 共生者・・・植物との共生 
  • 世界最大と言われるキノコは?
     目に見えるキノコで言えば、ブナの根元に生える巨大なトンビマイタケだが、何と秋田で最もポピュラーなサワモダシ(ナラタケ)だという。推定体重100トン、推定年齢1,500歳、大きさが15haに及ぶ。世界最大・最長寿の生物として「Nature」に紹介されている。 
  • アイスマンとキノコ・・・1991年にアルプス山脈にあるイタリア・オーストリア国境のエッツ渓谷の氷河で見つかった、約5300年前の男性のミイラ。彼は、ツリガネタケとカンバタケという2つのキノコを持っていた。ツリガネタケは火を付ける時の火種として使い、カンバタケは薬として使っていたと考えられている。 
  • 世界遺産に登録された伊勢堂岱遺跡大湯環状列石には、多くのキノコ形土製品が出土している。森の恵みであるキノコを神様に供えて、祭祀に利用していたのではないかとの説が有力。 
  • キノコのうま味成分はグアニル酸・・・酒粕を入れると、グアニル酸が物凄く増える。
  • 馬軍団と冬虫夏草・・・世界陸上の中国の選手が1990年代に世界記録を続出した馬軍団。その快挙は、ドーピングを疑われるほどだった。その秘密は、大量のアミノ酸が含まれる冬虫夏草のエキス入り疲労回復ドリンクを飲みながら猛特訓した結果であった。
  • キノコは冷凍すると美味しくなる・・・キノコは凍ることで細胞膜が壊れるため、生と比べてうま味成分が急増する。キノコを冷凍して比較してみてください。
  • ビタミンD・・・カルシウムの吸収、筋肉の合成、免疫機能の調整などに必要。冬になると、日光に当たる機会が少ないのでビタミンDを食品でとる必要がある。青魚にも含まれているが、キノコにもたくさん含まれている。
  • 室内で栽培されているキノコ・・・太陽の光を浴びていないのでほとんど含まれていない。しかし、スーパーで買ってきたキノコを、傘裏を上にして窓辺に30分~1時間ほど置くとビタミンDが作られる。キノコの中では、キクラゲが最も多い。日光に30分ほど当てたものを2~3枚ほどのキクラゲで1日分必要なビタミンDがとれる。 
  • オルニチン・・・アミノ酸の一種で、疲労改善に効果があるとされている。よくシジミパワーといって宣伝しているが、ブナシメジには、シジミの約6倍ものオルニチンが含まれている。二日酔いの朝にシジミの味噌汁を飲むと良いといわれるが、キノコの味噌汁を飲む方がアルコール性疲労改善に効果がある。 
  • キノコも日焼けする・・・赤や青、黄色などの花の色は、昆虫を呼ぶためだけでなく、子どもの種を紫外線から守るためである。キノコも同じで、有害な紫外線を除去するために綺麗な色をしている。キノコは、エルゴチオネインというアミノ酸の一種で守っている。シイタケで言えば、傘裏のヒダに多く含まれている。キノコを食べると、老化を防止し、病気の元になる活性酸素を除去してくれる。 
  • 乾シイタケ特有な香りが嫌いな人・・・20分程度、煮沸すれば、香りの成分であるレンチニンの大部分が消失するのでオススメ。
  • 秋田県で食中毒を起こすキノコのワースト3・・・ツキヨタケ、クサウラベニタケ、ドクササコ。 
  • キノコ狩りをする際の注意点
    1. 図鑑を見ても見た目が似ており判断できない。100%見分けられる見分け方はない。
    2. 確実に判定できないものは食べない。
    3. 迷信をうのみにするのは危険
    4. 色で判断できない
    5. 嘔吐、下痢、腹痛などは大腸菌やノロウイルスによると考えがちだが、キノコを食べた場合、すぐに医師に見てもらう。
  • ベニテングタケ・・・シベリアでは、ベニテングタケを食べた後、雪上に尿をすると、それを食べにトナカイが集まる。トナカイがそれを食べると動きが鈍くなる。その習性を利用して、トナカイを捕獲する。
  • エゾシカ・・・北海道では、エゾシカがベニテングタケを根こそぎ食べにくる。食べる理由は不明。
  • ニホンジカ対策・・・シカの越冬地を見つけて、一網打尽にしようとしているが、その際、ベニテングタケのもつ誘引物質を利用して、被害が拡大する前に捕獲できないか、などと考えている。キノコをたくさん集めるのは難しいが、菌糸を培養することはできる。それをエサに混ぜて誘引できないか?
  • 北海道では、夏、ヒグマがタモギタケを一杯食べる。屋久島では、猿がキノコを一杯食べる。猿も中毒を起こすが、仲間にこれは食べてはいけないと教える。こうして学習しながら毒キノコを回避している。
  • 臭い香りで昆虫を誘い、胞子を運んでもらう。ベニテングタケは、動物に食べてもらって胞子を運んでもらっているのかもしれない。 
  • 最近、問い合わせが多いのはナラ枯れ
     何故か分からないが、ナラ枯れの立木にナメコとムキタケが大量発生する。だから「秋田県のナラ枯れ激災地を教えてくれ」との問い合わせが多い。そしてナラ枯れの立木に生えたナメコとムキタケを採りに行くという。
  • カシノナガキクイムシがナメコやムキタケの菌を運んでくるのかもしれない。それは分からないが興味深い。 
  • 公園とか身近な場所でナラ枯れが発生すると・・・翌年にはほぼ確実に猛毒のカエンタケが生える。大人も危険だが、特に子どもが素手で触る可能性もあるので注意
  • キノコから開発された多糖体制癌剤・・・クレスチン(カワラタケ)、レンチナン(シイタケ)、ソニフィラン(スエヒロタケ)
  • ツキヨタケの毒性成分は、がんの治療薬になるのか、スイスで研究。
  • アルコールと一緒に食べると悪酔いするヒトヨタケは、依存症予防に利用できる可能性が指摘されている。
  • 幻覚作用のあるキノコ(サイケデリック マッシュルーム)の活性成分「シロシビン(サイロシビン)」を投与したうつ病患者には、症状の改善だけでなく、脳の“グローバルな統合”がみられた。他にも、インフルエンザの抗体を誘発する成分を含むキノコもある。 
  • ミツバチもウイルスに感染する・・・それを防ぐためにキノコが利用されている。サルノコシカケの仲間の抽出液を与えると、ウイルスがはびこるのを防ぐことができる。だから養蜂業の人たちが利用している。
  • キノコの新しい利用・・・既にキノコの菌糸体を利用した皮革や化学繊維の代替として靴やカバン、代替肉、梱包材などが製品化されている。キノコの新しい利用について、問題意識をもって取り組めばビッグビジネスのチャンスになる。金足農業、大曲農業の高校生と一緒に、キノコを利用した商品化・地域の活性化に取り組んでいる。
  • ブナアオシャチホコによるブナ枯れ
     ブナの葉を食害するブナアオシャチホコ(以下ブナ虫)は、時には数千haにわたりブナの葉を食い尽くすこともある。八甲田山や八幡平では、8~11年の周期で大発生を引き起こしている。ブナ虫が大発生すると、クロカタビロオサムシも大発生して幼虫・蛹を捕食する。翌年、ブナ虫のサナギの9割以上がサナギタケの感染を受けて大発生が起きるこの菌は、ブナ虫が増え過ぎた時に調節をする天敵として、最も大きい役割を果たす。つまり菌類は、森の生態系を維持する一員として重要な役割を担っている。 
 
  • 植物と菌根の進化・・・植物は、内生菌根菌がくっついて地上に現れた。木や落ち葉を分解する菌がいなかった時代は、倒れた木や落ち葉などが積み重なって石炭になったり、石油、天然ガスになったりした。キノコが誕生すると、木などを分解するようになって恐竜が生まれた。恐竜の時代にマツタケやサクラシメジの仲間が誕生。
  • キノコの棲み分け(高級リゾートマンション?)・・・1本の木で、キノコたちが仲良くきちんと棲み分けている。キノコは、愚かな戦争なんてしない。
  • キノコの命の守り方
    ① 外出の自粛・・・キノコはウロウロ動き回らない
    ② マスクの着用・・・キノコは声を発して会話をしない
    ③ 手洗い・手指消毒・・・シュウ酸など抗菌性を発揮する物質や抗生物質の産生
    ④ 三密(密閉・密集・密接)の回避・・・CO2濃度が外気と変わらない、キノコの間隔を確保、声を出さない(化学物質で会話)
    ⑤ クチン接種・・・菌糸のウイルスフリー化(分生子等)
  • 植物と菌類の共生
    1. スギは、キノコが作らない内生菌根菌と共生している。
    2. ブナはサクラシメジ、松はマツタケと共生(外生菌根菌)・・・ブナがこの寒い冬に生きられるのは、根に菌根菌が布団をかぶせたようにして凍害から守っているから。海岸林の松は、暑い夏、水不足になると、共生する菌から水をもらって生きている。
  • 菌根ネットワーク・・・植物の根系の周辺土壌には菌根菌のネットワークが張り巡らされている。
  • 親のブナは、子どものブナたちと菌根ネットワークでつながっている。だから危ない時は、その危険信号が全て伝わる。光が当たらない子どもブナたちは、親のブナが光合成でつくった栄養をもらっている。そうして天然のブナ林が守られている。松も同じ。 
  • 生物多様性・・・いろんな生き物がいて生態系を守っている。その中で菌類が重要な役割を果たしている。
  • 共存・共生の時代~菌根ネットワーク網
     樹木は、根っこで菌糸が全部くっついている。そして、お互いに「会話」できる「菌根ネットワーク網」になっている。真ん中の大きな木を「マザーツリー」と呼んでいる。低木層の若い木々たちが「栄養がほしい」と言えば、マザーツリーからもらうことができる。逆にマザーツリーが「水がほしい」と言えば、周りの木々からもらうことができる。つまり、森の木々たちはお互いに争っているではなく、菌根ネットワーク網でつながり、お互いに会話しながら協力し合うことで共存・共生している。 
  • 森吉山ブナ林再生応援隊
     去年の秋、森吉山で植樹をやった。草茫々の草地には、共生する菌根菌はいない。そういう所に、肥料を入れた植樹をやっても枯れる率が高い。一方、ブナと共生する菌根菌が入ったブナ林の森林土壌を植穴に入れると、肥料をやらなくても、菌根菌から栄養をもらって、10年、20年後には成長が良いのではないか。実際、「マザーツリー」の著者・シマードさんは、同じような研究を30年ほどやって、成長が良いとの論文もある。こういうやり方をすれば、何十年後になるかは分からないが、森吉のブナ林は立派に再生するだろう。