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森の学校2022 ブナ林の紅葉トレッキング

 2022年10月18日(火)、森の学校「紅葉のブナ林トレッキング」が乳頭高原(仙北市)のブナ林で開催された。参加者は39名。紅葉の鑑賞は、秋晴れになると、色づいた森や渓谷は、俄然輝いて燃え上がる。午前中は、そんなまたとない好天に恵まれたが、昼から午後にかけて低温とともに小雨に見舞われた。それでもブナ帯の紅葉美はクライマックス・・・燃え上がる「花もみじ」を観賞しながらトレッキングを満喫した。今年は、特にブナの林床に落下したブナの実が凄まじく、久しぶりに「豊作」のようだ。来年は、危険な親子グマに遭遇する確率が格段に高くなると思われるので、注意が必要であろう。
  • 主催/秋田県森の案内人協議会
  • 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会 
  • 協力/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • 休暇村乳頭温泉郷手前の旧乳頭スキー場駐車場に集合。3班に分かれて、軽く準備運動をした後、出発。
  • 午前のコース・・・旧乳頭スキー場(標高770m)→休暇村乳頭温泉郷→空吹湿原(890m)→黒湯(830m)→孫六温泉→旧乳頭スキー場(標高770m)に引き返す 
  • マザーツリー・・・ブナの寿命は300~400年と言われている。乳頭高原のブナ林は、約80年ほど前に大部分のブナの木が伐採されたが、その際、ある程度の割合で残された母樹を「マザーツリー」という。樹齢200~300年前後のマザーツリーから自然に種が落ちて一斉に成長し、今日のブナの二次林が再生された。この森は、人の手による植林ではなく、マザーツリーを残すことで自然再生できることを示すお手本のような森である。 
  • ブナの実「豊作」・・・遊歩道沿いにブナの実がたくさん落ちていた。今年は珍しく豊作。ブナの結実は、樹齢が約50~70年頃から始まる。殻の中には、三角形の茶色の実が二つ、向かい合って入っている。そのドングリの形がソバの実に似ていて、クリのような味がするので、別名「ソバグリ」と呼ばれている。 脂肪分が多く香ばしいブナの実は、人間が食べても美味い。 
  • 来年は危険な親子グマに注意・・・ブナの実が豊作になると、翌年の1月頃にベビーラッシュになると言われている。だから冬眠明けの5月以降は、危険な親子グマに遭遇する確率が高くなるので注意!。 
  • 枯れススキと紅葉(旧乳頭スキー場)
  • ブナ帯に生息する魚の代表「イワナ」・・・休暇村手前を流れるホンナ沢から清流が流れ込む池がある。その池の透明度は高く、ジャンボサイズのイワナが悠然と泳ぐ光景を鑑賞できる。その丸々太ったサイズは、目測35~40cm前後と大きい。イワナ好きにはたまらない池だが、「釣りは禁止」につき注意!  
  • イワナは何を食べているのだろうか・・・池底には落葉が堆積している。その落葉を食べて育つ水生昆虫が主なエサであろう。また池の周囲には、ブナなどの落葉広葉樹が迫り出しているので、春から初夏、その若葉を食べるイモムシやセミ、カブトムシ、クワガタなどの落下昆虫を食べているのであろう。さらに、サンショウウオやカエル、トンボ、バッタなども捕食しているに違いない。
  • 紅葉と黄葉・・・同じ「こうよう」でも、赤く染まる葉は「紅葉」、黄色に染まる葉は「黄葉」と書く。黄葉するか、紅葉するかは、ほぼ遺伝子で決まっているらしい。ブナ帯における黄葉の代表がブナ、ミズナラで、紅葉の代表がモミジ・カエデ類である。ただし、光の当たり具合、気候条件に応じて黄葉したり、紅葉したりするものもある。それだけ多様な黄葉、紅葉を楽しむことができる。
  • ブナ林の黄葉・・・ブナは黄色に黄葉するが、その期間は意外に短く、早々と褐色へと変化する。
  • ミズナラの黄葉・・・黄葉から褐色に変化。落葉するにつれて青空が透けて見えるようになるが、そのコントラストがまた美しい。 
  • 青空の 押し移りいる 紅葉かな 松藤夏山
  • ブナ林の黄葉に同化したウスタビガ(乳頭キャンプ場)
  • ホオノキの黄葉・・・ホオノキは黄色から褐色に色づく。
  • 蟹沢から空吹湿原に向かう
  • ブナハリタケ・・・ブナに生える白いキノコで、秋田では「ブナカノカ」と呼ばれている。とにかく収穫量が多く、古くから食用キノコとして重宝されてきた。 煮つけ、味噌汁、油炒め、天ぷら、炊き込みご飯、鍋物など。
  • オオカメノキ(ムシカリ)・・・黄色から赤紫色、紅色になり、美しく紅葉する。 果実は、夏に赤く色付き、やがて黒く熟すと、色々な鳥たちがやってくる。 
  • オオバクロモジ・・・秋、鮮やかな黄色に色付き、ブナ林内を黄色に染める。果実は黒く熟すと、一見サクランボと同じく美味しそうに見えるが、食用には不向き。  
  • ヤマウルシ・・・・カエデやツタよりも早く、黄色から真っ赤に紅葉して美しい。 
  • ハウチワカエデ・・・・カエデの仲間では、葉が最も大きく、黄緑、黄色、オレンジ、赤など変化に富み、多彩なグラデーションでブナ帯の森を艶やかに彩る。日当たりの良いところほど、美しく紅葉する。日陰で日射不足になると黄色いままのことが多い。 
  • ナナカマド・・・赤い実と真っ赤な紅葉が美しい。
  • ヤマモミジ・・・漢字では「山紅葉」だが、黄色に黄葉したりもする。陽の当たり具合によって、同じ木でも黄色から赤など様々な色に染まる。特に紅葉の初期は、その微妙な変化が美しい。 
  • 空吹湿原
  • ウワミズザクラの紅葉と黒く熟した実・・・黒く熟した実は、結構美味しい。果実酒は、梅酒のように健康ドリンクとして昔から利用されている。 また野鳥はもちろんクマも好物でよくクマ棚をつくる。クマはこの果実を種ごと呑み込んだまま、移動してから未消化の種とともに糞をし、種子を散布してくれる。クマも森づくりに貢献していることを忘れてはならない。 
  • ツクバネソウ・・・葉は茎の先に4枚輪生し、羽根つきの羽根に見立てたのが名の由来。果実は黒色に熟す。
  • ユキザサ・・・実は赤く熟し食べられる。
  • ベニイタヤ・・・黄色に黄葉し、やがて赤褐色になる。
  • ツルリンドウの赤い実
  • コシアブラの黄葉と果実・・・若芽は山菜として有名だが、黄葉や実を見る機会は少ない。葉は5枚の小葉が掌状につく複葉。白っぽく半透明な黄色に黄葉する。果実は黒く熟し、多くの鳥が採食する。名前は、昔、樹脂液を漉して金漆(ゴンゼツ)という塗料を作ったことに由来する。
  • 赤い実と紅葉が美しいコマユミ・・・紅葉が美しいニシキギの仲間で、この赤い実を好む野鳥たちが種を運んでいるのか、至る所にコマユミが自生している。
  • 落葉のジュウタン・・・林床に降り積もった落葉には、登山靴一つの足にトビムシ類は1000匹もいるという。何層にも堆積した落ち葉は、ミミズ、トビムシ、ササラダニなどの土壌生物やさまざまな菌糸によって分解され腐葉土へと変化、森をつくる大切な養分となる。森は、まさにリサイクルの精密工場のような働きをしている。また1cmの土をつくるのに、森林は100年以上もかかると言われている。
  • イオウゴケ・・・硫化水素の臭いがする温泉噴気孔の周辺に分布。子器の部分が赤くなるのが特徴。子柄と呼ばれる立ち上がっている部分は粉芽というもので覆われている。苔の仲間ではなく地衣類である。
  • 白っぽいブナの樹皮・・・硫化水素を浴びる周辺のブナの幹は、特有の地衣類などが育たず、木肌が白っぽいブナが林立している。
  • 田沢湖高原温泉の源泉施設から紅葉の美しい黒湯温泉に向かう
  • 紅葉の絶景が広がる黒湯温泉(標高約840m)・・・乳頭温泉郷の最奥部先達川上流に位置する。古くは秋田藩の湯治場で、鶴の湯温泉に次ぐ歴史がある。発見は1674年頃と推測されている。(以下黒湯周辺の紅葉は朝陽に輝く早朝に撮影)
  • 一渓の奥に 温泉を噴く 紅葉宿 熊岡俊子
  • 美しい紅葉の条件・・・最低気温が8℃以下になると紅葉が始まると言われている。その中でも美しく紅葉するには・・・
    1. 夜の急激な冷え込み・・・最低気温が5℃以下であること
    2. 十分な日当たりと昼夜の気温差が大きいこと
    3. 適度な湿度・・・適度な雨量が適度な間隔で続くこと。ブナ帯の渓谷は、この三条件がそろうので紅葉の名所が多い。
  • 木の葉が紅葉するのはなぜ?・・・樹木の葉は、カロチノイドと緑の色素クロロフィルを持っているが、通常はクロロフィルの含有量が多いため緑に見える。秋、葉を落とす準備として、葉の付け根の所に離層というミゾができる。そしてクロロフィルが分解され始めると、カロチノイドの黄色が目立ってくる。分解される速度がクロロフィルより遅いので、葉は一時的に黄色になる。
  • 葉に蓄積した糖類が紫外線を浴びると、アントシアンやタンニン系の色素に変化する樹木は、それぞれ赤や茶に紅葉する。ハウチワカエデやモミジ、ナナカマド、ツタウルシ、ニシキギなどは赤く(紅葉)なり、ブナやトチノキ、イチョウ、カエデ、カツラなどは黄色(黄葉)になる。
  • 同じ木でも葉の色が違うのはなぜ?・・・赤色のアントシアンの生成には、日光、夜間の冷え込みが条件となっている。枝先の葉に比べ、木陰、葉陰の葉は、日中の光、夜の冷え込みが不足しているので、同じ木でも赤と黄色が現れる。これは紅葉する木全てにあてはまるという。
  • 落葉が茶色になるのは・・・カロチノイドも分解され、食害を防いでいるタンニンから褐色色素のフロバフェンができるためである。
  • 落葉に同化した褐色型のトノサマバッタ(乳頭キャンプ場)
  • 黒湯から孫六温泉に向かう。小雨の中の黄葉も、また格別である。太陽の光の反射がなく、雨露にしっとり濡れた黄葉、紅葉も色鮮やかである。
  • 雨晴れて きて対岸の 紅葉山 星野立子
  • 孫六温泉で休憩・・・先達川沿いに建つ湯治場。発見は1902年(明治35年)。茅葺き屋根の伝統的な宿と紅葉に染まる森林浴、温泉交じりのマイナスイオンを全身に浴びて、実に爽快な気分にさせてくれる。乳頭温泉郷ブナ林散策道は、「ココロとカラダの健康づくり」にすこぶる役立つ隠れた森林セラピーロードである。
  • 紅葉を表す言葉・・・初紅葉、薄紅葉、雑木紅葉、楓、櫨(はぜ)紅葉、桜紅葉、柿紅葉、銀杏紅葉、ななかまど、紅葉山、錦木など数知れず。それだけ紅葉を愛でる文化は世界一と言われる。
  • 午後のコース・・・旧乳頭スキー場→乳頭キャンプ場(700m)→先達川・鶴の湯峡(620m)→ツアールの森→鶴の湯別館山の宿(580m)
  • ガマズミ・・・黄色から赤、赤茶色に紅葉する。果実は、赤く熟し、霜が降りる頃になると、白い粉をふいて甘くなり、食べられる。
  • 鶴の湯峡に架かる吊り橋を渡る・・・最も狭くなった峡谷に昔ながらの吊り橋が架かっている。 昔、近在の農家の人たちは、農閑期になると、鍋釜、ふとん、米、味噌などを背負って奥深い山道を歩き、この吊り橋を渡った。貧しい農民にとって、年に一度の湯治は最高の贅沢、最高の健康回復法だった。そんな時代に思いを馳せながら渡る。
  • 吊橋を 見せて且つ散る 紅葉かな 轡田 進 
  • 鶴の湯峡展望台・・・吊り橋から唯一の坂を登ると、平らな展望台に着く。眼下の葉陰越しに鶴の湯峡が見える絶景ポイント。 
  • 黄葉初期の鶴の湯温泉 ・・・1615年頃、既にこの湯は評判であったと言われ、400年余りの歴史を誇る。1658年頃、奥地の名湯の名を聞き、藩主佐竹義隆が、久保田から角館に出て、田沢湖畔潟尻から船で対岸の潟前に渡り、ここから馬で先達川をのぼり鶴の湯に入湯している。鶴の湯の玄関口にある木造りの門、その左手に茅葺きの陣屋と呼ばれる建物がある。これは、藩主が湯治の時に宿泊した由緒ある伝統建築物である。古くは「田沢の湯」と呼ばれていたが、1708年頃の記録によると、田沢のマタギ勘助が傷ついた鶴がきて病気を治していたところから「鶴の湯」と呼んだと言われている。
  • 形見とて 何か残さむ 春は花 山ほととぎす 秋はもみじ(良寛)
     何も形見として残すものはないが、春になったら桜の花を、夏はほととぎすの鳴く声を、秋は紅葉を楽しんでくれればいい。
     紅葉は、桜の花のように華やかで、はかない。ひとたび木枯らしが吹くと一斉に落葉し、沈黙の冬へ。やがて春が来れば、ブナ帯の木々は一斉に芽吹き、新緑は谷から峰へとまたたくまに駆け上がっていく。ブナ帯の春夏秋冬は、まるで生と死の循環のようにも見える。