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森の学校2021 紅葉のブナ林トレッキング(乳頭高原)


 2021年10月19日(火)、森の学校「紅葉のブナ林トレッキング」が乳頭高原(仙北市)のブナ林で開催された。参加者は19名。連日悪天候が続いていたが、当日になると、この日しかない好天に恵まれた。古来紅葉は、春の花に対して、秋の美を代表するもの。透き通るような青空をバックに、陽射しを浴びて燃え上がる「花もみじ」を観賞しながらトレッキングを満喫した。ただ気になる点が一つ・・・今年の異常気象を反映してか、ブナ帯のキノコ類は極端な不作。これも地球温暖化の影響であろうか。
  • 主催/秋田県森の案内人協議会
  • 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会 
  • 協力/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • 休暇村乳頭温泉郷手前の旧乳頭スキー場駐車場に集合。軽く準備運動をした後、黄葉初期のブナ二次林内の遊歩道を歩き、紅葉がピークになりつつある空吹湿原に向かう。メインガイドは、秋田駒ヶ岳・乳頭山周辺でパークボランティアをしている森の案内人・亀井健一さん。
  • 乳頭温泉組合によるイベント「乳頭温泉郷オータムウイークス2021 乳頭山麓で遊ぶ14日間」・・・旧乳頭スキー場跡地には、大きな白いテントが張られていた。何かと聞けば、ここを発着点にブナ林を巡るウオーキングツアーや電動アシスト付き自転車の無料レンタル、自然体験教室、土日は森の音楽会、地元農家による農作物や加工品の販売など、多彩な催しが10月28日まで開催しているという。コロナ禍で観光地は大打撃を受けているだけに、盛況を祈りたい。
  • 午前のコース・・・旧乳頭スキー場(標高770m)→休暇村乳頭温泉郷→空吹湿原(890m)→黒湯(830m)→孫六温泉→旧乳頭スキー場(標高770m)に引き返す
  • ブナ帯に生息する魚の代表「イワナ」・・・休暇村手前を流れるホンナ沢から清流が流れ込む池がある。その池の透明度は高く、ジャンボサイズのイワナが悠然と泳ぐ光景を鑑賞できる。その丸々太ったサイズは、目測35~40cm前後と大きい。イワナ好きにはたまらない池だが、「釣りは禁止」につき注意!  
  • ムキタケ(食)・・・ブナやミズナラなどに重なり合って群生するが、今年はまばらにしか生えていない。このキノコが生えると、マイタケの発生は終わりと言われている。
  • ブナシメジ(食)・・・ブナなどの広葉樹の枯木や倒木に発生する。
  • チャウロコタケ・・・ブナなどの広葉樹に生える。
  • ニカワチャワンタケ・・・ゼラチン質で白色あるいは淡い紫色を帯びる。
  • クリタケ(食)・・・栗色をしているのでクリタケ。秋田では「アカキノコ」と呼ばれ、古くから食用のキノコとして利用されている。ナメコと同様晩秋のキノコだが、ナメコは今だ皆無。
  • スギヒラタケ(毒)・・・例年9月頃に発生するが、紅葉の季節に発生するとは驚いた。
  • 食用キノコは不作・・・今年は、トンビマイタケ、マイタケ、マスタケ、サワモダシ、ブナハリタケ、シイタケ、クリタケも全て不作であった。こんな年は珍しい。地球温暖化の影響は、ブナ林の食用キノコ全般に及んできたかと思うと、やはり脅威を感じる。
  • クマに注意!・・・空吹湿原の古い看板には、毎年クマがかじった真新しい痕跡があるが、今年もあったのには心底驚かされた。もしかして、クマはテリトリーを主張するために、毎年かじっているのかと疑いたくなるほどだ。木製案内板や東屋などにクレオソート(木材防腐剤)を塗ると、クマが好んで噛みつく例があちこちで見受けられる。
  • 紅葉がピークになりつつある空吹湿原・・・今年は、ブナの実が皆無。そんな今年のクマ被害の特徴は、人里でクリ拾いの最中に襲われるケースが目立つ。遊歩道沿いには、「クマ出没注意!!」の看板が至る所にあった。亀井ガイドは、万が一を想定して腰には熊撃退スプレーを下げていた。
  • クマゲラの採餌跡・・・ちょっと古いので、乳頭高原トレッキングをスタートさせた2017年5月に撮影した写真を下に掲載する。 
  • 真新しいクマゲラの採餌跡(2017年5月17日撮影)
  • 森林総合研究所の調査によれば・・・クマゲラの食痕は、他のキツツキと比較して一般に大きく、特徴的なものは縦長の弁当箱のような形をしている。クマゲラの食痕がある木を割って調べたり、クマゲラの糞を拾ってきて調べたりした結果、枯死木や立木の幹などに巣をつくるムネアカオオアリというアリを主に食べていたことが分かった。
  • 東北地方でクマゲラの食痕がみつかったムネアカオオアリのコロニーを調べたところ、一本の木に約2,500から3,000頭の大集団を形成していた。また、コロニーの高さは最大のもので地上4mにも達していたという。これなら積雪期の冬でも食べ物を確保できる。またクマゲラが一つのムネアカオオアリのコロニーを見つけると、膨大な数の食べ物を確保することができることが分かる。
  • ブナの成熟林にある枯死木には、クマゲラの主要なエサであるムネアカオオアリの生息数が多いこと、その中でも立ち枯れ木が重要であるとしている。なぜなら、冬期に3mもの積雪がある豪雪地帯では、冬期になると倒木が雪に埋もれ利用できないからである。
  • 凍裂(とうれつ)・・・ブナの幹が縦に一直線に割れた線が入っている。これは幹が凍結して膨張し、弾けるように裂ける現象。これを凍裂と言い、摂氏零下25度以下で起こるという。 
  • ブナの樹皮・・・灰白色でなめらかな樹皮には、地衣類や苔の仲間などがつき、特有の斑紋がある。ところが、硫化水素を浴びる周辺のブナの幹では、特有の地衣類などが育たず、木肌が白っぽいブナが林立している。 ちなみに日本海側のブナは、樹皮が白っぽいので「シロブナ」とも呼ばれている。  
  • イオウゴケ・・・硫化水素の臭いがする温泉噴気孔の周辺に分布。子器の部分が赤くなるのが特徴。子柄と呼ばれる立ち上がっている部分は粉芽というもので覆われている。苔の仲間ではなく地衣類である。  
  • 紅葉が最盛期を迎えつつある黒湯温泉に向かう。
  • 紅葉の絶景が広がる黒湯温泉(標高約840m)・・・乳頭温泉郷の最奥部先達川上流に位置する。古くは秋田藩の湯治場で、鶴の湯温泉に次ぐ歴史がある。発見は1674年頃と推測されている。
  • ナナカマドの真っ赤な実 
  • ナナカマドの紅葉
  • ハウチワカエデの紅葉 
  • ブナ林の黄葉・・・ブナは黄色に黄葉するが、その期間は意外に短く、早々と褐色へと変化する。
  • ミズナラの黄葉・・・落葉するにつれて青空が透けて見えるようになる。そのコントラストがまた美しい。 
  • 孫六温泉で休憩・・・先達川沿いに建つ湯治場。発見は1902年(明治35年)。茅葺き屋根の伝統的な宿と紅葉に染まる森林浴、温泉交じりのマイナスイオンを全身に浴びて、実に爽快な気分にさせてくれる。乳頭温泉郷ブナ林散策道は、「ココロとカラダの健康づくり」にすこぶる役立つ隠れた森林セラピーロードと言える。
  • 木橋は工事中・・・大釜温泉に向かう途中の木橋が工事中のため、孫六温泉から引き返してスタート地点に戻る。 
  • 先達川に架かる木橋から、マイナスイオンを全身に浴びて眺める紅葉は絶景である。 
  • 落葉を踏みしめながら、ブナ林の遊歩道を引き返す。 
  • クチベニタケ・・・名前のとおり、丸い顔に真っ赤な口紅を塗ったように見えるキノコで、地下にタコの脚状の柄をもつ。夏から秋、林内の崖地に発生する。 
  • 落葉の芸術・・・この落葉を食べたのはどんな虫かな?
  • 午後のコース・・・旧乳頭スキー場→乳頭キャンプ場(700m)→先達川・鶴の湯峡(620m)→ツアールの森→鶴の湯別館山の宿(580m) 
  • 乳頭キャンプ場
  • 乳頭温泉郷湯めぐり号・・・ブナの森を駆け抜け、鶴の湯、妙の湯、黒湯温泉、蟹場温泉、孫六温泉、大釜温泉、休暇村乳頭温泉郷の七つの湯を楽しむことができる。そのバス停がキャンプ場にも新たに設けられていた。ブナの森でキャンプしながら、秘湯を巡る温泉三昧を楽しむこともできる。
  • キャンプ場のトイレで見つけた蛾「ヒメヤママユ」・・・クスサンやヤママユに似るが小さい。黄褐色ないし赤褐色のハネ4枚に眼状紋がある。9~11月、明かりに飛来する。
  • 同上「ウスタビガ」・・・丘陵から山地に生息。卵の状態で越冬。4月頃に孵化し、6月中旬頃にマユを作ってサナギになる。10~11月頃、成虫になって明かりに飛来する。橙黄色なのでメス。オスは濃い橙色をしている。
  • 九十九折りの急坂を下って鶴の湯峡に架かる吊り橋へ
  • 鶴の湯峡に架かる吊り橋を渡る・・・最も狭くなった峡谷に昔ながらの吊り橋が架かっている。 昔、近在の農家の人たちは、農閑期になると、鍋釜、ふとん、米、味噌などを背負って奥深い山道を歩き、この吊り橋を渡った。貧しい農民にとって、年に一度の湯治は最高の贅沢、最高の健康回復法だった。そんな時代に思いを馳せながら渡る。 
  • 鶴の湯峡展望台・・・吊り橋から唯一の坂を登ると、平らな展望台に着く。眼下の葉陰越しに鶴の湯峡が見える絶景ポイント。 ブナの幹には、古いナタ目が無数に刻まれている。例え旧道が草木に埋もれたとしても、ナタ目は残る。だからブナに刻まれたナタ目は、「落書き」どころか、ブナ帯に生きる人々の文化遺産だと言える。  
  • ツアールの森・・・ドイツ大使のカールツアール氏がここを訪れた時、その植生の豊かさ、変化に富んだ風景の散策路を絶賛して、「ツアールの森」と名づけたという。
  • ツアールの森の看板がある分岐点を右に進むと鶴の湯、左に向かうと鶴の湯別館山の宿にたどり着く。 
  • ツクバネソウ・・・葉は茎の先に4枚輪生し、羽根つきの羽根に見立てたのが名の由来。果実は黒色に熟す。
  • アカモノ・・・実は赤く熟し、酸味があって食べられる。 
  • ユキザサ・・・実は赤く熟し食べられる。
  • ミズのコブコ・・・秋になると、茎と葉の付け根に小さな丸いムカゴ状の実がつく。カモシカは、ミズのコブだけを選り分けて食べるくらいで、人間にとっても大変美味い。