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森の学校2023 秋田駒ヶ岳トレッキング

 2023年6月13日(火)、森の学校「秋田駒ヶ岳トレッキング 春の息吹を感じよう」が花の百名山・秋田駒ヶ岳で開催された。参加者は30名。前日の予報は、雨に見舞われる予報であったが、当日になると、時折太陽が雲間から顔を出すなど涼しい天気に恵まれた。山の残雪は、2021年と同じくらい雪が少ないものの、チングルマの開花は数えるほどしかなく、意外に開花は遅い印象を受けた。日本の植物学者・牧野富太郎をモデルにしたNHK連続テレビ小説「らんまん」が放映されていることもあり、参加者の植物に対する関心の高さが伺えるトレッキングであった。
  • 主催/秋田県森の案内人協議会
  • 協賛/(公社)秋田県緑化推進委員会 
  • 協力/秋田県森林学習交流館・プラザクリプトン
  • コース・・・秋田駒ケ岳八合目(1,310m)→片倉岳展望台(1,456m)→阿弥陀池(1,530m)→横岳(1,583m)→焼森(1,551m)→シャクナゲコース→秋田駒ケ岳八合目(1,310m)
  • 秋田駒ヶ岳マップ・・・「秋田駒ヶ岳自然観察マップ」(編集/南八幡平地区パーク・ボランティア ホシガラスの会)より抜粋
  • 秋田駒ケ岳八合目(1,310m)・・・天気予報が悪かったので、駐車場は余裕たっぷり。6月20日まで、平日でも、好天になれば、満車になることもあるので、早めに来る必要がある。バスの運行は、6月1日〜10月20日までの土、日、祝日と、6月21日〜8月15日の平日(マイカー規制:午前5時30分から午後5時30分まで)
  • 新道コースの植物を観察しながら、阿弥陀池をめざす
  • クマ出没注意・・・ツキノワグマが大好物なタケノコやニョウサク(エゾニュウ)などが群生しているので、クマの目撃も多い。登山に際して、クマよけ鈴は必携である。
  • ハクサンチドリ・・・駒ケ岳では群生は見られず、意外に個体数は少ない
  • 岩場に咲くイワウメ・・・まだ開花初期だが、美しい。草ではなく常緑小低木。和名は、岩場に生えて梅の花に似た花をつけることから。 
  • 高山に咲くムラサキヤシオツツジ・・・一般に低山の沢沿いやブナ帯に咲くものよりも色が濃く、新緑によく映えて鮮やかな印象を与える。 
  • ベニバナイチゴ・・・濃い紅色の花をうつむき加減に咲く。イチゴ類にはトゲがあるのが一般的だが、本種にはトゲがないのが特徴。赤く熟すと食べられる。
  • オオカメノキ(ムシカリ)・・・純白の花が新緑に映え、良く目立つ。 
  • オオバキスミレ ・・・黄色い花をつけるスミレで、園芸好きの人たちがよく栽培する山野草。スミレ類にはルチンという成分が含まれ、血圧を降下させる効果がある。またビタミンCの多い優れた山菜でもある。アクもクセもなく、快い歯触りと山の幸料理の彩りに使う。
  • マイヅルソウ/スダヤクシュ/ノウゴウイチゴ
  • ミヤマスミレ・・・根を伸ばして増えるので群生することも多い/ショウジョウバカマ・・・雪解けと同時に咲く
  • 休憩
  • イワテハタザオ(エゾノイワハタザオ)・・・富士山に特産するフジハタザオの変種。 
  • ナンゴクミネカエデ・・・雄花は、花弁とガク片の幅が広く、隙間がないのが特徴。葉先は、ミネカエデより尾状に長く伸びる。ミネカエデは黄色に黄葉するが、ナンゴクミネカエデは紅色に紅葉する。
  • コヨウラクツツジ・・・ツツジ科の中では最も花が地味で、小さな赤いリンゴの形をした壺状の花を下向きにつける。一見、果実のように見える。 
  • サンカヨウ/バッケ(ふきのとう)
  • 片倉岳展望台(赤土の広場、1,456m)
  • ミネザクラ(タカネザクラ)・・・サクラの仲間では最も標高の高い所に生えるのが和名の由来。
  • ミヤマハンノキ・・・垂れ下がっているのが雄花 / 果穂・・・熟すと隙間が開き、中から周りに薄い翼をもつゴマ粒のような種子が出て、風で散布される。
  • ハクサンシャクナゲの新芽/マルバシモツケ
  • ミヤマヤナギ・・・別名ミネヤナギ。樹形は環境で大きく変わる。高山では地を這うように横に広がり、低山では直立して高さ5mにもなる。
  • コケモモ/キャラボク
  • ミツバオウレン/エンレイソウ
  • ミヤマキンバイの群落・・・花は鮮やかな黄金色で、大きな群落をつくる。今回歩いたコースでは、最も目立つ花であった。 
  • キバナノコマノツメ・・・和名のコマノツメは、葉の形が子馬の足のヒヅメに似ていることから。焼森や大焼砂の砂礫地に生えているタカネスミレに似ているので注意。見分け方は、本種は葉が薄く光沢がないが、タカネスミレは葉が厚く光沢があり、さらに葉表が強く巻き込みロート状になるものが多いので区別できる。
  • イワカガミ・・・全体に大きく、花の数が3から10個と多い。花の色は淡紅色で、葉の鋸歯は20~30個と多いのが特徴。小型で花数が少ないものをコイワカガミとして区別する見解もあるが、明確に区別するのは難しいので、イワカガミとしている。
  • 参考:ヒメイワカガミ・・・白い花の数が少なく、葉に角ばった大きい鋸歯があるのが特徴。新道コースの上部や男岳の岩場などに見られる。
  • ナナカマドの新緑/地を這うハイマツ
  • コメバツガザクラ・・・葉が針葉樹のツガに、花が白から紅白色でサクラの花色に似ていて、小さな葉を米粒に見立てて、コメバツガザクラと呼ばれている。 
  • ミヤマダイコンソウ・・・高山に生え、葉がダイコンの葉に似ていることから、「深山大根草」と書く。 
  • わずかに咲いていたチングルマ
  • 植物の名前のつけ方・・・その例として、日本の植物学者・牧野富太郎が命名したコアニチドリについて説明があった。コアニチドリは、大正8年、木下友三郎氏が最初に発見し、牧野富太郎博士によって命名された。名前は、最初の発見地である上小阿仁村の小阿仁川に由来している。また55歳で亡くなった最愛の夫人をしのび、前年に仙台で発見した新種のササに夫人の名前を冠し、「スエコザサ」と名づけたエピソードも紹介。
  • 参考:牧野富太郎「亡き妻を想う」要約・・・昭和3年、妻は病気で亡くなる。享年55歳。墓碑の表面に、妻へ深い感謝として私の詠んだ句が刻んである。「家守りし妻の恵みやわが学び/世の中のあらん限りやスエコ笹」。この「スエコ笹」は、ちょうど仙台で笹の新種を発見して家に持ち帰っていたので、早速亡き妻の寿衛子(すえこ)の名を、この笹に命名して永の記念としたと記されている。
  • 葉が赤くなるのは?・・・赤の色素はアントシアニンで、有害な紫外線から葉を守るためである。春紅葉と呼ばれる鮮やかな色も同じ。花の色が赤や青色をしたり、果実が赤くなったりするのも紫外線からタネを守るためである。
  • コバイケイソウ/ツマトリソウ
  • ミネズオウ(常緑小低木)・・・茎は細く地を這い、マット状に地面を覆い、枝先に赤みを帯びた白色の花を咲かせる。 
  • お花畑の木道/阿弥陀池/ヒナザクラ 
  • 男女岳(おなめだけ、1,637m)を望む/浄土平の雪田
  • 阿弥陀池・駒ケ岳避難小屋周辺で昼食 
  • 横岳(1,583m)に向かう。 
  • 人気のシラネアオイ・・・雪渓や雪田の傍らに生え、日本が世界に誇れる日本特産種。 
  • 横岳分岐
  • 横岳分岐から、活火山・女岳と小岳、谷底に雪渓が残るムーミン谷を望む。
  • 横岳(1,583m)
  • 焼森に向かう・・・高山植物保護柵のある火山砂礫帯は、高山植物の中でも人気ナンバーワンのコマクサ群生地帯。 
  • 焼森(1,551m)山頂 
  • タカネスミレ・・・コマクサが咲く前に、火山砂礫地を一面黄色に染めるタカネスミレ。今回は、まだ花の数が少なかった。葉の表側が内側に強く巻き込み、ロート状になっているので、葉の形でキバナノコマノツメと区別できる。 
  • アカミノイヌツゲ・・・黒紫色の実をつけるイヌツゲに対して、実が赤いことが名前の由来。 
観察した昆虫等
  • ヤマキマダラヒカゲ・・・ヨツバヒヨドリ、リョウブなどの花で吸蜜する。チシマザサ(ネマガリダケ)などのササ類を食草にしている。 
  • マルクビツチハンミョウ・・・標高の高い地域では、今頃現れる。全身は紺色の金属光沢があり、腹部は大きい。触ると死んだ振りをして、脚の関節から黄色い液体を分泌する。この液には毒成分が含まれ、弱い皮膚につけば水膨れを生じることがあるので、素手で触るのは厳禁。
  • ゾウムシの仲間・・・和名は、ゾウの鼻のように口器が長いことから。葉を食べるもの、実を食べるもの、朽木や枯れ木に生息するものなど様々なゾウムシがいる。
  • コメツキの仲間・・・名前の由来は、つかむと、胸をパチパチと動かす動作が、米をつく動作に似ていることから。
  • 蛾の幼虫/オオアカマルノミハムシ・・・体は丸く、光沢のある橙赤色~明赤褐色。キンポウゲ科の植物の葉を食べる
  • ミヤマキンバイの花蜜を吸う高山アリ 
  • ヒメジョウカイの交尾/バッタの子ども
  • 昼飛ぶスズメガ科の仲間/シラネアオイの蜜を吸うハナアブ
  • アズマヒキガエル・・・茶褐色で、皮膚はでこぼこしている。動きは緩慢で、のっそりと歩く。秋田駒ケ岳は植物の多様性が豊かだから、それに依存した昆虫も多いので、主に昆虫を捕食しているのであろう。
  • カタツムリ/参考:カタツムリを食べるオサムシの仲間・マイマイカブリも生息しているのであろう。夜行性なので目にすることはほとんどない。
  • 焼森から乳頭山をバックに記念撮影 
参 考 文 献
  • 「秋田駒ヶ岳自然観察マップ」(編集/南八幡平地区パーク・ボランティア ホシガラスの会)
  • 「フラワートレッキング 秋田駒ヶ岳」(日野東・葛西英明、無明舎出版)
  • 「植物記」(牧野富太郎、ちくま学芸文庫)